願い事はひとつだけ

 

 神社とは、往々にして年を通して何かしらの行事が行われている場所である。
 祭神により行事内容に差異があり、繁忙期と呼ばれる時期がまちまちであったりするが年末年始だけはどこも確実に忙しいと言えるものだった。
 実家である神社も例に漏れず、例年ならば休む暇もなく奔走していた。だが、今年からは無報酬の労働力を三人程調達できるとあり双循の機嫌は上々であった。
 家業の弁当屋が休みの八咫烏に、病院が開いていない為に用心してバイトを入れられない不死鳥。そしてどうせ暇であろう蜂という、体力があり余っている高校生三人を確保出来たからだ。一部、体調面を考慮しなければならないがそれはそれである。
 正直、使えるのか使えないのか微妙な面子のような気はするが、単純な労働力として換算すれば問題はない。授与所での在庫の運搬や交通整理など、体力が物を言う仕事は幾らでもある。
 ことの始まりは、あと数日で冬休みを迎えるという頃に双循から年末年始の行事が忙しくライブどころかバンド練習にすら参加出来ないという話を出したことだった。
 実家の事情となれば反対出来る者が居る筈もなく、ドラム不在の状態でスタジオを借りるのは出費が勿体無い。ならば各々で自宅練習しつつ休みを満喫しようという流れになったが、それを聞きつけた校長から「じゃあキミたち補習受けるかい」と言われたのだった。
 普段は奉仕活動となるバンド活動が優先され、成績や出席日数に目を瞑って貰っているところがあるが、揃っての練習が出来ないとなれば学業に舵を切るのは当然である。
 冬休みの宿題に加え、補習まで受けるとなると休みは完全に無くなってしまう。苦悩する一年生たちを横目に──ジョウは出席日数が稼げるのなら、と受ける気満々であった──双循が校長に話を持ち掛けた。

「……それなら、地域活動も社会奉仕にはならんか?」
「DOいうことだい?」
「ウチの神社は地域密着型じゃ。地元の為に働くのなら、そこでの労働も奉仕活動の一環に該当するじゃろう」
「なるほど、一理あるねぇ。なら、キミたち冬期補習の変わりにお手伝いしてきなさーい!」

 大仰な動きで扇子を拡げる校長から放たれた鶴の一声により、三人の「それ双循が得するだけじゃねえか」というツッコミは黙殺されたのだった。
 それから数日が経ち、終業式を迎え今に至る。
 あの三人が来るのは元旦の午後からだ。それまでに重労働ばかりをピックアップしておくかと、双循は己の仕事をこなしながら段取りを考え始めたのだった。

 

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 新年を祝うミューモンで溢れていた境内も、年が明け数日が過ぎた頃には落ち着きを見せ始めていた。この程度の参拝者なら雇ったバイトだけでも事足りると、本来の予定より早々に社会奉仕活動という名のタダ働きは幕を閉じたのだった。
 残りの冬休みは各々の用事や宿題に充てられ、新学期が始まるまでは練習もない。片手で足りる程の日数とはいえ、束の間の休みを満喫しようとハッチンが誘いをかけているが、全員からにべもなく断られていた。

「なんだよつまんねぇなー。正月らしいことしようぜ」
「店の休み終わるんだよ」
「俺もそろそろ病院が開くからな」
「神社で働いたんじゃけえ、十分正月らしいじゃろうが」

 再度の誘いもけんもほろろに退けられているが、諦める気配は微塵も無い。だが、このまま放置していればジョウが折れて付き合うことが予想出来る為に特に問題はなかった。
 どうせ折れるのなら最初から折れておけと思わなくもないが、それが彼らなりの付き合い方なのだろう。

「正月らしいことしたいんなら、ここで参拝すればいいんじゃねぇか?」
「ファッ!? そういやそうじゃねーか!」
「おどれはここを何だと認識しとったんじゃ」

 ジョウが拝殿を指差しながら零した言葉にハッチンが勢いよく食い付いた。そのまま二人だけで向かうのかと思いきや、ハッチンがヤスの手を掴み拝殿へと歩を進めている。逃がす気はない様子に、面白いものが見れそうだと双循も足を動かした。
 賽銭箱の前に着いたと同時に「賽銭は一万サウンドルからじゃ」と吹っ掛けてみたがガン無視をされる。取り敢えず口にしただけで、出すとも思っていないので各々の財布から小銭を出す様子をじっと眺めた。
 稼ぐ方法は賽銭に限らない。学校が始まった際には色々巻き上げる次第である。

「なぁ、サンパイってなんかルールあるんだっけ?」
「聞いたことはあるけど……」
「ファー。ヤス分かんねーのかよ。ダッセェ」
「お前に言われたくねぇよ」
「なぁ、どーやんの?」

 参拝方法が判らないというハッチンにいつも通り嘘を教え込もうかと考えたが、生家で阿呆なことをされるのは問題だった。ヤスも答えを期待しているのか、じっと双循を見詰めている。

「……先ずは手水舎で清めんかい。それから──」

 真剣に聞く一年生たちの後ろで「珍しくまともに教えてやがる……」と呟いた不死鳥は後で潰すことにした。
 参拝も終えると、あとは帰るのみとなる。そのまま鳥居までは見送るかと四人揃って参道を歩いた。
 歩き方も教えたからか、二人ずつに分かれ真ん中を通らないようにしている。
 双循とヤスの前方を歩く二人からは、「モテたい」といった願掛けをしたハッチンにジョウが「願い事は口外すると叶わないんじゃなかったか?」と返す声が聞こえた。
 言っちまったー! と騒ぐハッチンを一瞥し、ヤスに声を掛ける。

「おどれもクリスマスには僻んでおったようじゃが、恋人を願ったりはせんのか」
「今はバンドあるし、それどころじゃねぇだろ」
「……その様子では、初恋すらしとらんようじゃな」
「はぁ? 俺だってそのくらい……」
「あるんか?」
「…………」

 重ねた質問に沈黙を返される。あるのか。
 この一瞬で、双循の胸中は嵐の只中に放り込まれた。ヤスに惚れている身としては、聞きたいような聞きたくないような複雑な心境である。自分で振った話題だという点は気にしない。
 過去ならばいい。これが現在進行形で、自分以外の誰かを想っているとなれば策を講じる必要がある。
 手段を考えながら続く言葉を待っていると、ヤスの目がじっと双循を見上げてきた。
 僅かに熱の籠った視線に、少しの期待を覚える。だが、これが勝手な思い込みではないと断定出来る材料もない。
 会話が途切れたまま、静寂が二人の上に舞い降りた。その間も、足は鳥居へと向かい続けている。

「……ねぇな」
「は」

 鳥居に着く直前、ぽつりと零れた音に間の抜けた息が漏れた。無いのか。
 先程までの空気を忘れたかのように、からからとヤスが笑う。

「それじゃあ、練習ん時……いや、お前のことだから新学期早々に校門で徴収してるか」
「よく分かっとるのう。献上品を用意しておくんじゃな」
「うぜえ。……まぁ、唐揚げ弁当は持って行ってやるよ」
「ヤス、それは──」

 双循が続ける前に、先に道まで出ていたジョウとハッチンを追うようにして歩き出す。鳥居を抜ける際、教えた通りに一礼する姿は逆光となりその表情は見えなかった。

「……どういう意味なんじゃ」

 残されたのは、八咫烏の意図を計りかねる狛犬の姿だった。

 

2022年の正月SSでした。不死鳥パイセン引けてない(2022年4月現在、69ガチャでも来ない)のであの神社がどこか知らない。

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