昼間は賑わいを見せていた商店街も、日付を越える頃には人通りは途切れしんと静まり返っていた。各店舗もシャッターを下ろしており、静寂を構成する一部となっている。
その一角、弁当屋の一室では一人の少年がベッドの上をごろごろと転がっていた。
眠れない。
ベッドに入ってから数十分の時間が経っていたが、睡魔がヤスの下に訪れる様子は一向に無かった。
体温で温もったシーツに不快感を覚えたからかと冷えた場所を求め転がっていたが、新たに体温が移るだけで何の効果も齎さなかった。
それもそうだと頭の片隅で考える。眠れない理由は、外気温の暑さではない。
内に籠もる熱が、ヤスから睡眠欲を奪っていたのだった。
「クソ……っ」
このままでは治まりがつかないと、熱を持つ箇所に手を伸ばす。触れてもいなかった場所は、僅かに勃ち上がっていた。
横になったまま寝巻きにしているハーフパンツを脱ぎ捨て、下着の上から軽く撫でる。暫く開放していなかったそこは、軽い刺激だけで鎌首を擡げ始めていた。
「ん……っ」
もぞもぞと下着を下げ、露出した性器に直接触れる。久々の感覚に、思わず小さな声が漏れた。
先端を柔く刺激し、溢れ始めた先走りを全体に塗り込むように拡げていく。ある程度の滑りを得たら、今度はそれを潤滑剤にして竿を擦り上げた。
「あ……っ。んぅぅ……そうじゅ、双循……っ」
最後に抱かれた日を思い出しながら、小さな声で恋人の名を繰り返し呟き陰茎を弄る。合間合間に亀頭を刺激することで、気持ち良さは増大し続けた。
快感を得るやり方は、彼から学んだものだった。
それまではただ処理が出来れば良いといった程度の無機質な弄り方しかしていなかったが、金色の狛犬に抱かれてからは彼の動きをなぞるようになってしまっていたのだ。
前の熱が募れば募る程、後ろが物足りなくなってしまっているのを自覚している。あの熱を、硬く張り詰めた肉棒を突き入れて揺さぶられる事にいつしか喜悦を覚えてしまっていた。
彼の肌に触れたのは何時だっただろうかと寂寥感を抱えたまま考える。夏のこの時期は互いの家業が忙しく、練習以外で会う暇もなかったのだ。
陰茎を擦る手はそのままに、もう片方の手を後ろに回し穴の縁を撫でる。濡れる筈のないそこは、自身の指でさえ飲み込もうと貪欲にひくつき蠢いていた。
指ごときでは物足りないのは理解している。だが、それでも止まることは出来なかった。
「……ッ」
思わず上げそうになった声を枕に吸わせる。指先だけを入れた状態ですらこんな状態になるのなら、根本まで入れてしまえばどうなるのだろうか。
荒くなる息を詰め、ゆっくりと沈ませる。少しずつ動きを加える度に頭を動かしていたのか、気付けば枕から頭は外れていた。
今更戻す気にも成らず、そのまま自慰を続ける。
「足りな……っ。あ、これ、じゃ……足りねぇ……っ!」
予想通り、己の細い指では満たされる事などなかった。どれだけ動かそうと、予測の出来る動きなど双循の手によって引き起こされる快楽には遠く及びもしない。
たとえ指を増やしてみても、彼と同じ動きをしたとしても、愛しい相手に触れられるという喜びに勝るものなど存在しないのだろう。双循しか知らない身では判別もつかないが、彼以外を知りたいとも思わなかった。
「そ、じゅ……。そう、じゅん……っ」
何度も何度も、恋人の名を唇に乗せる。それだけでも、彼を感じていたかった。
張り詰めた性器が解放を求め荒れ狂う。それに伴い、前後の動きも激しさを増した。
「ふぁ……ん、くぅ……ん……っ。んんん…………ッ!!」
限界が近くなり、一際強く扱いたと同時に先端から白濁した液体が迸る。いつもより多く出たそれは、慰めていた手のみならず適当に脱ぎ捨てていたハーフパンツにまで濡らしていた。
いつの間に敷いてしまっていたのかは分からないが、これのお陰でシーツまでは汚れなかったのは幸いだった。ハーフパンツは今は軽く手洗いしておき、朝にでも洗濯すれば問題ないだろう。
「……なにやってんだ、俺」
ティッシュで手を拭い、ベッドから起き上がる。所謂賢者タイムに突入すると、先程までの行為への後ろめたさが湧き上がってきていた。
恋人をオカズにしてしまった事実に対し、今度の練習で顔を合わせるのが気まずくなる予感がしてならない。それを悟られようものなら、ここぞとばかりに揶揄いの材料にされるのは確実だ。
いっそ「恋人相手に欲情するのは当然だ」と開き直ってしまえばいいのだろうが、そこまでの胆力はまだ持てそうになかった。
ひとつ深い息を吸い込み、呼吸を整え思考を切り替える。
明日も弁当の仕込みを手伝う為に、とりあえずは眠ることが先決だ。汗も精液もこのままで居るのは気持ちが悪いので、ついでにシャワーも浴びて来ようと決める。
身支度を整えたヤスは、眠る母を起こさないよう静かに風呂場へと足を向けたのだった。