| 以下の点、ご留意ください。
・出来てる双ヤス |
その鴉を見付けたのは、単なる偶然だった。
本日開催されるイベントを狙って解き放った何体かのダークモンスターのどれかと単独で戦いでもしたのか、それともそこいらの不良と喧嘩でもしたのか。完全に気を失った状態の少年が、路地裏で物陰に隠れるように転がっていたのだった。
襤褸とまでは言わないが、そこそこの怪我をしたように見える状態の少年を拾ったのは気紛れでしかない。何と無しに、見覚えのある顔を見捨てる気分ではなかっただけだ。
小柄な体を肩に担ぎ上げ、この後について一瞬途方に暮れた。悩みと連動するように、毛量の多い銀色の尻尾がゆらゆらと揺れる。
このまま黒船に連れて戻ってしまうと、鬱陶しい双子や戦闘狂の兎に色々と突かれるのは簡単に予想がついた。確実に面倒な事態になる上に、目を覚ました少年にそこで暴れられても厄介だ。
ひとつ溜息を吐き、自分がこの路地に入った理由を思い出す。
何を目的として作成しているのかは不明だが、毎回船を出る度に渡される割引クーポン付き観光マップにはメンバーが自由に使える隠れ家も記載されているので、休憩を兼ねてその場所を確認しておこうと考えていたのだった。
ひとまずはそこに向かおうと、銀色の狛犬は八咫烏を担いだまま路地裏の奥へと足を進めた。
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辿り着いた部屋は、ユニットバスが付いているだけでも御の字とでも言いたくなるような古びた安宿だった。狭い室内には、シングルサイズのベッドと一人掛けのソファ位しかない。多少のアメニティグッズも用意されているようだが、長期で滞在するための部屋ではない事は一目瞭然だった。
そもそも、本拠地は黒船なのだから街中に長く身を隠す必要もない。ここは、あくまで臨時の場所でしかないのだ。
担いだままだった少年はソファにでも放置しておこうかと考えたが、流石にこの状態から意識のない相手を狭い場所に座らせるのは骨が折れる。
それよりもベッドに投げ込んだ方が余程楽なのだが、とてもではないが薄汚れた服のままでベッドに上げるのは精神的によろしくなかった。しかし、土足入室を前提としている床に転がすのもそれはそれで気分が悪い。
妥協案として、ベッドの端ギリギリに転がしてから汚れた服を適当に脱がせる事にした。脱がせた制服とエプロンはソファに投げ置き、ついでにぬるま湯で絞ったタオルで体に付着している汚れを落としていく。
その際に気付いたが、少年の怪我は見目が多少派手なだけで少々の打ち身と小さな切り傷がある程度だった。少し強めにあちらこちらを触ってみても痛みに呻く様子もないことから、骨や内臓にも大したダメージは無いのだろう。
肌の所々にある赤い痣は、ダークモンスターの攻撃か、倒れた際に砂利にでも打ち付けたかで負ったのだろう。
甲斐甲斐しく世話を焼いている状況が自分でも理解しきれないが、泥や埃で汚れたシーツを洗う羽目になるよりはマシだと考えるようにする。だが、そもそも隠れ家の掃除をする必要は無いという事実に気付いたのは、使用済のタオルを片していた時だった。
「……クソ、なにやってんだ」
己の行動に悪態をつきながら、下着姿となった少年をベッドの中央に転がす。空いたベッドの端に腰掛けると、振動が伝わったのか、少年の瞼が震え薄っすらと開き始めた。
「……ん……?」
「──ッ!」
作業を行うためとはいえ、小柄な体を右に左にと転がしていたのだ。その内に目が覚めるのは当然だった。途中で起きなかったのは、ある意味で奇跡である。
「どこだここ……」
ゆったりと起き上がり、ぼんやりした表情で周囲を見遣る。知らない場所に居ると認識している割には、あまり気にも留めていないような反応だった。
どこか焦点の合っていないような視線が、こちらに向けられる。
「双循」
「あぁ?」
思わず、地を這うような声が漏れた。何故こちらを見てあのクソ狛犬の名前が出るんだ。
忌々しい名を告げた少年は、相手の反応を意に介しないまま現状を整理するようにぽつぽつと呟き出した。
「たしか、配達の帰りにダークモンスターが現れて……。お前が倒したのか?」
何やら大いなる誤解をしているが、やはり放ったダークモンスターにやられていたらしい。あまりにも突然過ぎる出現に、対応が遅れ攻撃を受けてしまったのだと話している。
少年から与えられる情報で、現状への察しが付いた。
正直なところ、出現させたモンスターがどのような能力を持っているのかはその時にならないと分からない。今回、彼が遭遇したのは認識の置き換えを行うタイプだったのだ。
大方、被弾した者の記憶を探り、その中で近似点を持つ者同士が置換の対象となったのだろう。
その所為で、非常に胸糞悪い状況に陥っている。こんな事になるのならば、あのまま放置しておけば良かった。
人通りのない路地裏とはいえ店の裏口などは存在している。最悪、放っておいたとしても今日中には誰かに見付けられていた筈だ。その際、彼がどのような目に遭うかの保証は無いが。
そこまで考え、先程までとは違う微妙なムカつきを覚えた。どこの誰とも知れない相手に拾われるくらいなら、己が回収した方が余程良い。
兄に間違われるという最悪な状態でなければ、の話だが。
思考が同じ場所を巡る。
このまま少年の傍に居ると、苛立ちだけが増していきそうだった。認識の置換があるとはいえ、身体に問題は無いのだから放置しても大丈夫だろう。
どうせこの場所は一度使えば放棄するのだ。彼の意識が正常ではないのなら、ダークモンスターが倒され元に戻ったとしても誰と共に居たかなど覚えていまい。
彼が身に着けていた制服もエプロンも、すべてソファに放置している。配達帰りだと言っていたからには、こちらを追い掛ける可能性も皆無だった。
半裸にした少年を放って立ち去ろうとしたが、ふと余計な考えが頭を過ぎる。
この少年は、兄が所属するバンドのボーカルギターだ。
フロントマンでもある彼を潰してしまえば、今後のバンド活動も行えなくなる上に、世界を黒に染める邪魔をされずに済むのではないだろうか。
出口に向かおうとしていた踵をとって返すと、そのままベッドに乗り上げた。
座り込んだままだった少年を押し倒し、細い首にゆっくり手を掛ける。殺しまではしなくとも、喉を傷めてしまえばこの鳥は歌えなくなる。
「双循? お前……」
「…………」
首筋をするりと撫でる手を掴まれた。意図に気付かれたのかと思ったが、彼の口から飛び出したのは予想外過ぎる言葉だった。
「昨日シたばかりだろ!」
「……なに?」
突拍子もない台詞に手が止まる。
まさか、彼らの間で首絞めが常習となっている──という訳ではないだろう。兄が自分の知る頃とそう変わっていないのなら、そんな倒錯的な趣味など持ち合わせては居ない筈だ。
ならば、彼の言葉は一体何を指すのか。
冷静になって、己の状態を考えた。
細身の少年の衣服を脱がせ、ベッドに押し倒しその上から覆い被さっている。
それは、まるで。
「──ッ!」
一つの可能性に思い当たり、雷を受けたような衝撃を覚えた。同時に、確信をする。
この少年と兄は、肉体関係を持っている。
よくよく少年の身体を見下ろしてみれば、打ち身だと思っていたあの痕はそういう意味合いの箇所に濃く残されている。
意味を理解してみれば、その尋常ではない数に付けた相手の耽溺する様が透けて見えるようであった。
悪魔と名高いあの男が誰かと深い関係になる、ましてや執着までするなんて知る限りでは無かった。その唯一を奪ってしまうのも一興なのでは、と暗い感情が胸に巣食う。
首に掛けようとした手を滑らせ、あちこちに散らばっている赤い印をなぞった。触れる度にぴくりと跳ねる体が、痕跡の残された場所こそが性感帯であることを示している。本気で止める気は無かったのか、いつの間にか彼の手はシーツを握っていた。
特に多く付いていた胸元に唇を寄せる。兄の所有印を消すように、その上からキツく吸い付いた。
「ん……っ。ほんとに、すんのかよ……!」
抗議するように尾羽をバタつかせているが、最初に掴まれた以外には静止の手は伸びてこない。普段から何度も行っているのだと察するのは容易だった。
応えないまま、何箇所も同じ行動を繰り返す。その度に少年の息は荒くなり、視線の先にある乳首は立ち上がっていた。多分、ここも可愛がられているのだろう。
少しの好奇心と重くなる嫌悪を抱え、赤く色づいたそれを舌で潰すように舐めた。
「あ……、あぁ……っ!」
とびきりの甘い声が少年の喉から放たれる。耳に心地良く響いた音を聴くために、押し潰すだけでなく唇に挟んだり、飴を舐めるように転がしたりもした。
反対側には指を這わせ、周囲を撫でながら時折爪で弾いたりする。刺激を与える程に硬さを増していく乳首に、一欠片の愉しみを見出し始めた。
「やぁ、あ……んぅ……。ひっ……あぁぁぁッ!」
少しばかり強めに噛んだ途端、細い悲鳴が上がる。僅かに痙攣を起こしながら肩で息をする様子に、軽く射精したのだと悟った。
「……そこまで開発してんのかよ」
そう多くの、まして男相手の経験は無いが乳首だけでイケるなど直ぐに出来るものでは無い。
そこまで時間と手間を掛けているのかと思うと、彼に対する兄の執着が予想以上に強いようで面白くなかった。
中途半端に点けられた火種を誤魔化そうとしているのか、落ち着きなく下肢をもぞもぞさせる姿に劣情が湧き上がる。
幾ら見目と声が良くとも、同じ男の体に反応出来るのかと頭の片隅で考えていたが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
身を起こし、コートとネクタイを脱ぎ捨てる。手袋も投げ捨てた後、ベルトを外し前立てを開こうとした時には隆起した一物に引っ掛かり直ぐには出来なかった。自覚していた以上に興奮している状況に、更なる獣欲が沸き上がる。
芯を持ち始めている陰茎を取り出し、再び覆い被さる際に少年に唯一残されていた下着も脱がせた。
まろび出た性器から、とろりとした液体が溢れている。互いの性器を重ね、一纏めにして上下に扱くと緩やかな立ち上がりだったそれはしっかりと勃起し、ししどに濡れ始めた。
「そうじゅん……っ。そこ、あっああ、んんぅっ」
愛しさと欲を滲ませた声で、違う名前を呼ばれる。
彼が紡ぐ名が己のものであれば良いのに、と頭のどこかで考えている自分に混乱と嫌悪を抱いた。
これは、唾棄すべきものだ。求めてはならないものだ。
思考を振り切ろうと、機械的な動きで濡れた指を後ろの穴に滑らせる。硬く閉ざされていると思っていた場所は、存外に柔らかく第一関節までを一気に受け入れた。
──やはり、少年は兄に抱かれているのだ。
これまでの言葉と反応で分かり切っていた事実を、改めて目の前に突き付けられる。最初は中指のみを挿れてゆっくりと動かしていたが、彼の慣れと前から流れ出る先走りを利用し、一本、また一本と増やしていった。
「んぁっ」
「キツイのか?」
「へい、き。ん……っ、いつも通りで、いいから」
三本目を挿れる頃には少しの圧を感じていたが、それも動かしている内に弛緩していった。いつも通りと言われても、男とのセックス、ましてや兄とその恋人の性事情を知る所以など存在しない。
手探りで進めるしかないが、認識の取り違いを起こしている相手なら問題はないだろうと高を括った。
指を繰り返し抜き差しながら、時折腸壁に指先を強く這わせる。特に反応の良い場所を幾度も刺激すると、直截的な快楽に対し健気に揺れる陰茎からはとめどなく蜜が零れていた。
排泄器官が受け入れる為の性器と化した頃合いを見図り、屹立した陰茎をそこへ押し当てる。
「なぁ、今日のお前……なんかおかし……っ。んぅ…んん!」
言い掛けた言葉を唇で奪う。開いた口に舌を差し込むと、応えるように小さな舌が絡みついてきた。淫猥な音を上下で奏でながら、じわじわと侵略していく。
育ちきった陰茎が根本付近まで納まる頃には、二人揃って息が上がっていた。
「やっぱ……なん、か……変だろ……」
違和感が拭えないのか、何度も疑問を投げつけられる。正気ではないとはいえ、兄に心を砕いている者にとっては異変が滲み出ていると窺わせるものなのか。それとも、体で覚えたものだろうか。
「んっ。いきなり動く、なぁ……っ」
余計な思考は外に追い遣り、ゆるゆると腰を動かした。徐々に速度を上げて行くと同時に、聞こえる喘ぎも増えていく。
「あっ、ああ……ふぁあっ!」
「く……っ」
押し寄せる快楽に流され、一度このまま終わらせてしまおうと考えた途端に少年の動きが止まった。
「……え?」
突然、不確かだった視線と真っ直ぐに交わる。どこかでダークモンスターが討伐されたのか、彼を支配していた能力がこのタイミングで掻き消されたようだった。
セックスをしている相手が恋人でなくその弟だという現状を把握出来ていないのか、淫らな行為をしている最中とは感じさせない程の幼気な目が銀色を捉える。
「なん、で……? ひぅっ」
完全に正気を取り戻す前に、両腕を捉え頭上に掲げさせた。その状態で、放り投げていたネクタイで縛り上げる。
その際に挿入したままの男根が前立腺を掠めたのか、快感を示す声が漏れ聞こえた。同じ場所を狙い、何度も突き上げる。
誰に抱かれているのか、正しく認識させる為に。
快楽に蕩けていた顔は見る間に色を失くし、絶望が重ねられる。予想とは違い、齟齬が起きていた間の記憶も保持しているようだった。
「や、止めろ……っ。 はな、せ……っ!」
縛られた腕をどうにか動かそうと藻掻いているが、圧し掛かられ尻穴に挿入された状態では上手く動ける訳がない。
半端な抵抗など無意味に等しいが、更に矜持を折るためにも縛った腕を片手で抑え込んだ。もう片方で彼の細い腰を掴み、最奥を抉るように腰を動かす。
案の定、先刻までのような喜悦の声は上がらず、押し殺した吐息だけが室内に染み込んでいった。
「く……ぐ、うぁぁ……っ」
幾回目かの律動に耐えきれ無かったのか、漸く呻くような声が上がった。
その折に目尻から流れた涙は痛みによるものなのか、屈辱によるものなのか。はたまた、憎悪によるものなのか。
満足な抵抗も出来ず、浮き上がった足が肩に掛けられる光景をつぶさに見届けるしかない様が、滑稽であり哀れでもあった。
途切れることなく、責め続ける。
「んぅ……っ。く、ぐぅう……っ」
声を上げるまいと必死に噛み殺しているのか、唇の端から赤い液体が流れた。血が滲む程の拒絶を消し去りたくなり、その血を舌で舐め取る。
慣れた鉄の味が口内に広がる程に、胸の澱みは増える一方だった。
「オレを選べよ……ッ」
金色など消えてしまえばいい、と叶う筈のない願いを口にする。
愛よりも深く、恋よりも醜く。憎まれて、恨まれ続けて、そのまま己だけが映れば良い。
「……ッ!」
返されない言葉が心を刻む。それを埋めるように、隙間など生まれない程に強く腰を打ち付け最奥に己の証を放った。
どうせ。どうせなれないのなら。
きみのいちばんになれないのなら、きえることのないふかいきずとなればいい。
終
凱循と919表記で迷った結果、名前出さなければ良いのでは?となった。
【2023/8】オフ本収録に際し、加筆修正。